【 走れ!谷梨栄子 】
◆LBPyCcG946




38 :No.10 走れ!谷梨栄子 1/5 ◇LBPyCcG946:08/11/23 17:07:29 ID:YAfkf9yb
「エーコ、新しい情報が入った」
 私の背中でそう囁いた声の主は、同じクラスの優香。私は至って平静を装いながら、小声で返事をする。
「了解。放課後に」
 優香は何も言わず自分の席に戻ると、文庫本を鞄から取り出して読み始めた。カバーがしてあるが、大体内
容は分かる。私の方はというと、友達と楽しげに会話をしながら、さりげなく情報を聞き出すチャンスを伺う。
ここで迂闊にも核心に触れてしまってはならない。忍者のように隠密に、かつ有益な情報を得る為大胆に任務
を行う。食べている物、飲んでいる物、帰ったら家で何をしているか、家族構成、恋人の有無……。会話の中
から必要な情報を拾い上げ、頭の中にメモしていく。この積み重ねが、豊かな明日を切り開く事になるのだ。
そしていつか……いつか思いを遂げようと私は思っている。
「あ、そうだ。エーコに聞きたい事があったんだ」
 席が右隣の友人の声。戦闘力は目算で13〜16程度、Cクラスのファイターだ。
「わ、やめなよ。気にしてるかもしれないし……」
 今度は左隣の友人。こちらの方は、クラスで最強の戦闘力を誇る、EあるいはFクラスのプロ級戦士。しか
しそれに奢る事も無く、実に謙虚な人柄だと思う。私は決してうろたえる事無く、右隣の友人に問う。
「え、何? 何でも聞いてよ」
「あのさ〜」にやつくCクラス。その視線はゆっくりと私の目から首筋を降下し、核心をつく。
「エーコって、貧乳だよね」
 禁断の言葉。あるとしたら、まさにこれがそうだった。
 丘豊高校2年2組、谷梨栄子。私の戦闘力は、10cm以下Aクラス。人は私を心の中で貧乳と呼ぶ。だけ
どそれは、決して口に出してはならない禁忌。人々を見返す為には、たった1つの手段しかない。
 放課後、私はすぐに旧校舎の一室へと向かった。来年には取り壊しになる予定のこの校舎で、授業が終わる
とある秘密の部活動が行われている。それに所属しているのは、同じクラスでは私と優香のみ。貧乳ツートッ
プ。優香の方はもう既に来ていて、本を読んでいた。また、1年生に5人、2年生に私と優香を含めて4人、
3年生には部長がおり、結構な大所帯だ。少なくとも囲碁・将棋部よりは多い。
 所属する誰しもが胸に深い傷(精神的に)を負った戦士達であり、いずれもAカップ以下だ。
「あ、エーコ」
 優香が私に気付いた。私は会釈をそこそこに、先ほどから気になっていた事を尋ねる。
「で、新情報って?」
「そうそう、この本のこのページなんだけど……」

39 :No.10 走れ!谷梨栄子 2/5 ◇LBPyCcG946:08/11/23 17:07:47 ID:YAfkf9yb
 優香が教室で読んでいた本だ。優香はミステリーの謎解きよりも、私達の胸が膨らまない謎を解きたがり、
幻想的なファンタジーよりも、私達の胸が膨らむ夢を見る少女だった。すなわち、読んでいる本は豊胸関連、
様々な元貧乳達の書き残した偉大な書物だけだった。
「アメリカ人に巨乳が多いのは、フライドチキンを食べてるからなのよ」
 また随分と極端な理論を取り出した物だ。しかし聞いてみるとなるほど納得、鳥のたんぱく質は豚や牛のそ
れとは違っていて、乳が育まれやすいのだそうだ。もはや藁にもすがる思いの私達にとって、例えそれが眉唾
物の情報だとしても、千載一遇のチャンスに見えてしまう。今夜のおかずは唐揚げだ。
「ところで部長は?」
 私が優香に尋ねた。部長はなんと、3年間乳研に所属していながらいまだAカップから脱出できないという
悲運の持ち主ながら、その豊胸知識は賢者レベルであり、ぜひとも優香の情報に対し意見が欲しいと思った。
「まだ来て無いみたい」
 優香が答えた。私は少し残念に思いながらも、やっぱり唐揚げより竜田揚げの方が効果があるかもしれない
と思い直していた。我が乳研の活動内容は、簡潔に述べればこんな感じだ。豊胸関連の情報交換から始まり、
部長がやってきてから理想の乳に関するディベート。内容は、私達は美乳を目指すべきか、それともいっそ巨
乳を呪うべきか、あるいは貧乳を誇りとして捉える事はできないだろうかといった、実に濃く深い内容であり、
様々な意見が交わされ、今後の為になる。
 その後はアイドルビデオ鑑賞。といっても、断じて男子が見る時のやましい気持ちなどではなく、理想の乳
に対するイメージトレーニングだ。視聴覚室から拝借してきたプロジェクターで、部長推薦のビデオを流し、
皆でそれを鑑賞する。そうする事によって、乳の研究のみに留まらず、部としての一体感も生まれる。ちなみ
に、乳合宿は年に2回行われる。その時は、各自その日までに溜めた理想乳の画像、映像を一挙に集め、交換
を行う。これは繰り返しになるが、断じてやましい気持ちなどない。私達は、ほんのわずかな、手に収まるだ
けの乳を手に入れたいだけなのだ。どうして私はそんなに乳が欲しいのか。答えは簡単、好きな男子に、自信
を持って告白する為だ。他の部員達も、大体私と似たような動機を抱えている。
 そんな事を考えていると、部長がやってきた。何やらいつにもなく真剣な顔つきだ。その緊張感が部員全員
に伝わり、教室は一気に緊迫した空気に包まれる。
「えー、部長の私から、1つ話があります」
 部長の口ぶりから、乳研究部のある掟が浮かんだ。乳研究部所属部員は、Aカップ以下限定。つまりBカッ
プとなった部員は、強制的に退部となる。1年の時に6人いたとされる現3年生も、残るは部長だけとなった
理由がこれだ。つまり部長がついに……卒業。と思ったが、部長の乳は相変わらずだ。

40 :No.10 走れ!谷梨栄子 3/5 ◇LBPyCcG946:08/11/23 17:08:04 ID:YAfkf9yb
「私達は、常日頃からバストアップ体操をしてきました」
 全員が唾を飲み込み、耳を傾ける。
「しかし、私自身にしても、2年生にしても1年生にしても、満足した結果は未だ得られていません」
 ため息が零れる。
「そこで私から提案があります。これは普段からタブー視され、その話題に触れる事を皆さんが嫌っていた事
です。しかし私はあえて今、そのタブーに足を踏み入れたい。そうしなくては、私達の胸の膨らみの発展は望
めないからです」
 重い台詞が続く。
「……おっぱいは、人に揉まれて大きくなる。この言葉は、皆さんがご存知でしょう」
「で、ですが!」
 優香が声をあげた。
「ですが、残念ながら私達の中に彼氏持ちはいません……。揉まれようにも、揉んでくれる人がいません。男
達は、私達の胸を見てすごく残念そうな顔をします。これでは彼氏なんて到底できません!」
 確かに、優香の言う通りだった。胸が無い、付き合えない、付き合えないから揉まれない、揉まれないから
胸が無い。というループから、私達は脱出できずにいる。部長は唇を噛み締め、声を殺して叫ぶ。
「私達は乳研。何の為の……集まりですかっ!」
「部長それは!」「あまりにも惨め過ぎます!」
 1年生から声があがった。つまり部長からの提案とは、女同士でお互いに揉みあって、乳を大きくしていこ
うという内容だった。それは誰しもが1度は考えた事であり、それだけに、明言は避けられていた。
「1年生の君達、あなた達にはまだ未来があるわ。でも私には……もう……」
 部長の目から大粒の涙が零れる。来年には部長はこの学校を卒業し、大学へ進むだろう。身体の成長は、止
まりつつある。私は息を大きく吸い込み、立ち上がった。
「私はやります」
「エーコ!」
 優香が私にすがるように立ち上がった。
「私は欲しい。おっぱいが……欲しい」
 その言葉は、いつも私の思っている事そのものだった。私の脳裏に、クラスメイトの彼の顔がよぎる。
「もちろん、やりたくない人はやらなくてもいい。もう今日は帰っていい。でもやる気のある人だけ残って、
徹底的に揉みあいましょう」

41 :No.10 走れ!谷梨栄子 4/5 ◇LBPyCcG946:08/11/23 17:08:21 ID:YAfkf9yb
 部長は涙を拭い、努めて冷静にそう述べた。私はじっと、優香の両目を見た。出来ればいて欲しかった。そ
して揉みあいたかった。しかしそれがわがままである事を、私は分かっていた。優香が口を開く。
「エーコ……私も……私もやるよ」
 部員の中に、立ち上がって帰る者は1人もいなかった。
 椅子に向かい合って座る。私のパートナーは優香。やはり良く知った者同士の方が、多少なりとも恥ずかし
くないだろうとの配慮からだ。ブレザーを脱ぎ、ワイシャツのボタンを1個1個外していく。私は優香のを、
優香は私のを。決してこれは、やましい行為をしている訳ではない。ただ乳をマッサージし、お互いの栄光を
願う為の純粋な行為だ。
 優香のブラジャーが露になった。薄いピンク色の、店で売っている一番小さい奴だ。なぜそんな事が分かる
のかというと、私も全く同じブラジャーをたまたましていたからだ。私達は顔を合わせ、お互いに苦笑いをす
ると、まずは私が優香の背中に手を回し、ホックを外した。一瞬、優香が恥ずかしそうに顔を歪め、ブラジャ
ーを手で抑えた。私はそれに微笑みで返し、私の胸を差し出した。優香はホックの外れたブラジャーをあやう
いバランスで付けたまま、私のワイシャツに手をいれ、同じようにホックを外そうとした、その時。
「キャァァァ!」
 悲鳴が轟いた。1年生の方からだ。声の聞こえた方を見ると、教室のドアを指差している。咄嗟にその方向
に視線をやると、そこにはなんとカメラを持った男の姿があった。部員全員がそれに気付き、続けて悲鳴をあ
げた。男はその声に驚き、すぐ様身を翻す。顔は暗くてよく見えなかったが確かに男だ。部員達は急いで服を
着なおし、頬を真っ赤に染めている。呆気にとられた部長の顔。取り壊し予定の旧校舎、まさか人が来るなど
とは思いもしない。しかも写真まで撮られたとあれば、混乱するのも無理はない。
 私はというと、衝撃を受けたのは確かだが、意外にも冷静だった。まだ完全に服を脱いでいなかった事もあ
るだろう。そこからの私の思考回路は、今すべき事を徹底的に探す事へとシフトしていった。
 まず今の覗き魔がこれからとりうる最悪の行動は恐らくこうだ。手に入れた写真は現像され、男子生徒の間
に広がっていく。そこから私達のクラスや名前がバレ、私達は変態レズ軍団として学校中の晒し者にされる。
すると、ただでさえ貧乳のせいで寄ってこない男達がますます敬遠し、私達の学校生活はドス黒く濁っていく
。そんな事は、断じてさせない。私は立ち上がり、ドアを大きく開けた。男を捕まえて、何としてでもカメラ
を奪還し、口封じをせねばならない。聞こえる足音はまだそう遠くない。追いつける。祈るように念じ、私は
走り出した。幸運だったのは、私の方が普段から旧校舎を訪れている事もあって、内部の構造に詳しかった事、
更に胸が無いおかげで乳が揺れるという心配がなく、全力疾走を決められた事。シャツのボタンを止める暇は
無いが、それは仕方ない。今はとにかく逃げる男を捕らえなければ、そう思った。

42 :No.10 走れ!谷梨栄子 5/5 ◇LBPyCcG946:08/11/23 17:08:39 ID:YAfkf9yb
 男の背中が見えた。カメラを抱えて走っている事もあってか、私よりも遅い。派手な逃走劇の末、どうにか
追いついて腰にタックルを喰らわせると、私とその男はもつれて倒れこんだ。すぐ様私はマウントポジション
を取り、カメラを取り上げる。そして覗きこんだ男の顔は、良く知った、憧れの君だった。
「所属を言え!」
 咄嗟に出た言葉がこれだった。意図して軍人っぽく言おうと思った訳ではない。
「ひ、ひぃ」
 彼が情けない悲鳴をあげる。私は、今度は丁寧に言おうと心がけるが、どうしても高圧的になってしまう。
「所属を言えと言ってる!」
「に、2年2組、し、新聞部です」
 クラスも新聞部も、本当は知っていた。ただただ混乱していた。しかしここで逃がす訳にはいかない。
「ぼ、ぼ、僕は学校の七不思議っていう題材で旧校舎に写真を撮りにきたんだ。そ、そしたらあんな事してる
から……」
 男が言葉を詰まらせた。私は走ったせいで荒れた息を整えながら、まずはきちんと説明をしようと試みる。
「いいか良く聞け。断じて私達は、やましい目的で乳を揉みあおうとしていた訳ではない。ただ……私達共通
の悩みを解決する為に乳を揉みあおうとしていただけだ」
 自分の言葉ながら、支離滅裂である事は分かっている。だがしかし、ここで貧乳が原因で、などとは口が裂
けてもいえない。彼はもちろん納得などしていなかったが、ひどく怯えきった様子だった。それを見て、あろ
うことか、ふと私にある衝動が芽生えた。それはあっという間に喉を逆流して、何の躊躇も無く零れ落ちた。
「おい、お前……私と付き合え」
 自分で自分の台詞が信じられなかった。おっぱいが欲しい。揉まれたい。見られた事を何とかしなければな
らない。やっぱり彼は格好いい。おっぱいが欲しい。廃部にはなりたくない。いつか告白したいと思っていた。
私は部長についていく。おっぱいが欲しい。ブラジャーの意味が無い。おっぱいが欲しい。そんな混沌とした
思いが交差して、ついに出た言葉だった。一種の興奮状態のまま、私は彼の返事を待つ。
「え、えっと……」
「……早く答えろ、正直にな」
「お、おっぱい丸出しで走ってくる女の子とは、付き合いたく……な、ないです」
 私を裏切ったな! ブラジャー!!!





BACK−ふっくらみ!ふっくらみ!◆8wDKWlnnnI  |  INDEXへ  |  NEXT−Alice in the box◆xsJqaU.umA