【 創造世界 】
◆tmpxHIUkAw




17 :No.05 創造世界 1/5 ◇tmpxHIUkAw:09/03/01 23:27:23 ID:r4FG3zEk
「お願いします」
「我が魂を救いたまえ」
「どうか、どうかうまくいきますように」
「おまえなんか大嫌いだ」
「ありがとうございます」
「…………どうして……どうして僕に話しかけてくるんだ」

 高校生ぐらいの少年がヘッドホンを首にかけ、窓際に腰を下ろしている。
 部屋には開け放たれた窓からひんやりとした空気と赤い夕日が差し込んでいた。
「何かしないの?暇なんだけど……」
「五月蝿い」
「はぁ。お前はこういった雰囲気を楽しむことができないのか? 窓から入ってくるのは冷たい空気と温かみのあ
る赤い光。そして遠くから僅かに聞こえる人々の話す声。お前にはこの……」
「五月蝿い」

 洒落た喫茶店の奥の席。
 何を見るでもなく、ただボーっと宙を眺めている少年が口を開いた。
「あの女の子かわいくない? 声かけてみようよ!」
「……」
「なんだよ黙っちゃって。行動しないと始まらないよ! さぁ!」
「お前はもっとジェントルマンな思考を出来ないのか? そこらへんの女にほいほい尻尾を振って」
「だってかわいいんだもん」
「……タイプじゃない」

 一人の少年が夜空を見上げている。
「…………」
 手には病院で渡された紙が握られている。
 少年は一人考えるのだった。

18 :No.05 創造世界 2/5 ◇tmpxHIUkAw:09/03/01 23:27:40 ID:r4FG3zEk
 少年は病院の待合室にいた。
 少年は名前が呼ばれるとカーテンを潜り担当の医師の前に座る。
「その後、どうかね?」
 医師はカルテを捲りながら分厚い眼鏡越しに訊いてくる。
「……」
「君が何か言わないと困るんだけどなあ」
 その医者はまたかという風にそう言う。
「こいつに何か聞こうってのが間違ってる。俺たちでさえこいつがしゃべるのを聞くのは一日数回だ。ちなみに
こっちの馬鹿にも何か訊くのは間違いだ。つまり、何かまともな答えが欲しいときには俺に聞くのがベストだ」
「ば、馬鹿ってなんだよ……」
「……最近は馬鹿が二人五月蝿くて困ってる」
 医師はそれを訊くとカルテに何か書き足し薬の処方箋を出した。
「今回は薬の量を少し増やしてみるかね。それじゃあまた一週間後に」

 薄暗い家路。
「なぁなぁ。何か話そうよ」
「……」
「なんだよ、寂しいじゃん」
「……」
「なんでなにも喋ってくれないの?」
「……面倒くさい」
 少年は、次はコイツの話し相手になるようなやつを作ろうと思うのだった。

「あ、あの……」
「なになに?どうしたのお姉さん」
「なんだおまえ見っともない。それじゃあ犬と同じじゃないか」
「自分に素直なのはいいことなんだよ?そういえばなんだかんだ言ってタイプだったんだね。喫茶店の女の人」
「……タイプじゃない」
「そんなはっきりといわれたら傷つきます……」

19 :No.05 創造世界 3/5 ◇tmpxHIUkAw:09/03/01 23:27:51 ID:r4FG3zEk
四月一日
 最近感じる、いつも誰かに見られているような違和感が段々と大きくなってきていた。
 不本意だが病院に行くことを決めた。
 そして、朝から晩までかかった検査の結果とある精神病であることが判明した。
「先天性人格分裂病」
 それが僕の病気の名前だった。
 非常に珍しい病気だという。
 僕は帰り道、星を見て思った。
 この病気は完全に別な人格が脳内に出来る。
 それなら、僕はこの脳内に一つの世界を作り上げることが出来るのではないかと。

四月五日
 一番最初に生まれた人間は、僕とは真逆の性格の人間だった。
 今日も一日中話しかけられた。
 どうして無視をし続けているのにこうも何度も話しかけてくるのだろうか。
 正直、かわいそうになってきた。
 丁度いい話し相手になりそうなやつを作ってやろう。
 全ての人格は僕から生まれるわけだから、どんな人格かも、僕の思い通りになるだろう。

四月六日
 もう一人の人格が生まれた。
 一人目の人格との相性もそこまで悪くはないと思っている。
 その証拠に二人はすぐに馴染んでいった。
 しかし、頭が重い。
 別に頭の中で二人が騒いでいるからではなく、恐らく二人目が生まれたからだろう。
 今日は一日窓の近くで、まだ少し冷たい風に頭を冷やしながらすごした。

20 :No.05 創造世界 4/5 ◇tmpxHIUkAw:09/03/01 23:28:08 ID:r4FG3zEk
四月八日
 我ながら、自分の適応能力の高さには驚いた。
 昨日一日で頭の重さは完全に消えた。
 さらに、頭の中に二人の人間がいながらも普通に外を歩くことも出来た。
 多少の弊害は覚悟していたが予想外だ。
 そういえば今日の昼間、喫茶店にいたときに一人目の男が喫茶店の客をかわいいといった。
 例えば、脳内の人間同士が恋愛感情を抱くことはありえるのだろうか?
 次は彼女をイメージしてみよう。

四月九日
 三人目を作り上げる前に、一度病院で見てもらうことにした。
 二人目が生まれたとき頭が重くなったことを考えれば、三人目はもっと重い症状が出ることが考えられる。
 検査の結果、脳には異常がないようだった。
 ただ、誠心安定剤と脳に必要なビタミン剤を増やされた。
 だがこれなら問題ないだろう。
 明日四人目を作る。

四月十一日
 頭の中がやかましい。
 正直三人目でもう結構きつい。
 そういえば、初めの二人は男だからまだいい。
 だけど、三人目は女なわけだから、俺の口から出ているの女言葉というわけか。
 ……いや、出来るだけ気にしないようにしよう。
 こんな事をいちいち気にしていたら後が続かない。
 明日は四人目を作る。

21 :No.05 創造世界 5/5 ◇tmpxHIUkAw:09/03/01 23:28:25 ID:r4FG3zEk
四月一日
 二十年。
 今日で二十年になる。
 だけどもうダメだ。
 きょうでこの日記も終わりにする。
 僕は動物や植物を作った。
 人々は物を作り、男と女は子供を作った。
 頭の中は生き物とモノであふれている。
 なのになぜ、なぜ皆僕に話しかけてくる?
 なぜ僕に祈りをささげてくる?
 なぜ?
 どうして?
 なんで?



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