【 紹介します。妻の美雪さんです 】
◆QmrNKIyyew




30 :No.08 紹介します。妻の美雪さんです 1/5 ◇QmrNKIyyew :10/03/15 00:26:04 ID:4iAYmchp
「紹介します。妻の美雪さんです」
 バイト先で久しぶりに会った幼馴染は、呆気にとられている僕を見下ろすような、どこか勝ち誇った表情で彼の隣に佇む
女性を紹介してきた。
 美雪さんと紹介された女性は、女の事となると少々うるさい僕から見ても、とても美しい女性だった。新雪のような白く
透き通る肌、仄かに甘い香りを放つ艶やかな黒髪、つぶらな瞳をうっすら細め、口元を薄く微笑ませている。その微笑はど
こか気品に満ちていて、これが本物の深窓の令嬢というものなのかと僕は思い知らされてしまった。
 僕は勤務中ということも忘れ、思わず美雪さんに見蕩れてしまっていたが、幼馴染の「おい」という声にはっと我に返り
「ど、ども」と、しどろもどろに挨拶をした。
 冷静になった頭で考えてみれば、この状況はあまりにおかしなものだった。僕の幼馴染のこの男は女性と二人きりで喫茶
店で逢瀬をするような洒落た男では決してないからだ。しかもその相手が妻で、その上とびきりの美女だなんて、道端で淡
いピンク色のブラジャーを拾うくらいありえないことなのだ。
「とりあえず僕はクリームソーダ。それと彼女にはレモンチーを一つ」
 不審に思い、幼馴染の顔をじっと睨みつけていると、彼はらしくない気取った態度で注文をよこしてきた。僕はぞんざい
に返事をして、訝りながらも厨房に向かおうとすると、幼馴染は今度はやけに改まった調子で切り出してきた。
「バイト終わったあと時間取れるか? 実はお前に折り入って頼みがあるのだが」
 幼馴染のやけに重々しい雰囲気に圧され、僕は思わず了解してしまった。しかし、なんだかとても嫌な予感がするのは気
のせいなのだろうか。
 
 幼馴染とは、家が隣というだけでなく小学校、中学校、そして高校と僕と共に青春時代を歩んできた仲だった。まぁ、し
かし青春時代を共に歩んだ、なんて言ったものの、世間一般がイメージするような部活動に熱心に取り組みチームを支える
黄金バッテリーを組んでいたとか、同じ女の子を好きになり映画やドラマのような淡い恋愛模様を描いていたとか、そんな
清々しい青春を歩んできたわけではない。こいつと共に歩んだ青春は、工場廃水に汚濁された川のような、ひどく汚らわし
い唾棄すべき青春だった。
 僕の幼馴染のこの男は、とても陰気な人間だった。学校ではいつも独り自分の席で正体不明の文庫本を読んで不気味に笑
い、その実ニキビまみれの油っ鼻に滑らせているメガネの奥では、女子のブラウスから透けて見えるブラジャーに目を光ら
せ薄ら笑いを浮かべているような男なのだ。つまるところ、僕の幼馴染はとても気持ちの悪い男なのだ。
 幼馴染の気味の悪い正体をいち早く察知した僕は、とにかくこいつと関わるのを止めようと思ったのだった。しかし、幼
馴染という不運な因果に見舞われた僕は、いつもしつこくこの男に付き纏われ、いつしか僕もこいつと同じ種類の人間とし
て見られるようになってしまったのだった。
 おかげで中学時代はもとより、人間関係が大きくリセットされる高校時代までも女っ気ゼロの冴えない青春時代を過ごす

31 :No.08 紹介します。妻の美雪さんです 2/5 ◇QmrNKIyyew:10/03/15 00:26:51 ID:4iAYmchp
羽目になったのだった。
 高校を卒業してからは僕は大学に進学し、幼馴染はニートになったと聞いた。僕はようやく幼馴染の呪縛から解放され、
夢のキャンパスライフと名を変えた遅咲きの青春を謳歌できると胸を弾ませていたのだが、しかし現実は甘くなかった。
 まずは新入生のオリエンテーションで遅れをとり、その後も多種多様なサークル活動に果敢に参加してはみたものの、幼
馴染の呪いのあまりの強さに女子が一人も寄ってこなかったのだ。僕は自身の顔面の造形はともかく、コミュニーケーショ
ン能力、会話スキルには問題がないと自負している。つまりこれもきっと全ては気味の悪い幼馴染のせいに違いないのだ。
 その僕の青春を現在進行形で掻き乱し、憎たらしくほくそ笑んでいる幼馴染が、さらに僕の怒りを煽るように、とても美
しい女性との鴛鴦っぷりをこれ見よがしに見せつけてきたのだ。そのうえ僕に頼み事があるとぬけぬけと抜かしやがった。
まったく、我が幼馴染ながらいい度胸をしている。いったいどんな頼みごとであるかは知らないが、何を頼まれたところで
「だが断る」と、はっきりと言ってやろうと僕は心に誓った。

 バイトを終え、携帯電話を確認すると『ウチ来て』と面白みのないメールが届いていたので、僕は『美雪さんの尻を擦ら
せろ』とだけ返信し、その足で幼馴染の家へと向かった。まぁ、とは言ってもヤツの家は僕の家の隣なのでいつもと変わら
ぬ帰路なのだが。
 幼馴染の家に上がり、久しぶりに会った妹さんに挨拶をしたあと、彼の部屋に入った僕はその部屋の中の光景に言葉を失
った。
 幼馴染は赤い色の縄でぐるぐると亀甲縛りに拘束され、彼の顔の上に美雪さんが腰を下ろして――つまり尻を乗せていた
のだ。しかも美雪さんは下半身に身につける服飾を脱ぎ捨て、パンツ一丁という状態だった。幼馴染は恍惚な表情を浮かべ、
美雪さんは相変わらず優雅に微笑んでいる。二人が一体何をしているのか、僕にはまったく理解できなかった。しかし、僕
にもたった一つだけ理解できることがあった。――僕も美雪さんの尻に敷かれてみたい。
「おお、来てくれたか。とりあえず一区切りつくまで、そこらへんに座って待っていてくれ」
 部屋の入り口で立ち尽くしている僕に気がついた幼馴染は、そう言うと再び恍惚な表情を浮かべ身を悶えさせはじめた。
一区切りとはいったい何を指し示しているのか僕には分からなかったが、こうして呆然と立ち尽くしていてもしょうがない
ので、とりあえず幼馴染の指示に従うことにした。
 幼馴染は一体僕になにを頼むのか、正直この部屋に入るまではどうせどうしようもない頼みごとなのだろうと思っていた
のだが、部屋の中で行われている奇妙な光景を目の当たりにした僕は、なんだか不思議と期待に胸が躍りはじめていた。
 一人ぽつねんと座った僕は、二人が行っている逸楽なお遊びをまじまじと凝視したい思ったのだが、それはなんだか美雪
さんにとても失礼な気がしたので、二人に背を向けて座ることにした。
 時折聞こえる幼馴染の珍妙な声に憤りを覚えたが、逆にその声が僕の想像力を掻き立て悶々としてきてしまった。やりき
れない気持ちになった僕は、しょうがないのでテーブルに置いてあった、ロンギヌスの槍に絡みつく綾波レイのフィギュア

32 :No.08 紹介します。妻の美雪さんです 3/5 ◇QmrNKIyyew:10/03/15 00:28:18 ID:4iAYmchp
の尻を擦ることで気を紛らわすことにした。ブラグスーツ越しに浮かぶ艶かしい肉感の尻を一人寂しくすりすりと。だが指
に伝わる綾波レイの尻の感触は、見た目と反して硬質なもので、ちっとも気が紛れなかったのは言うまでも無い。
 こんな我ながら情けないことをしながら、僕はある疑問を抱いていた。先程から、幼馴染の吐き気を催すような叫び声は
聞こえてくるのだが、肝心の美雪さんの声がまったく聞こえてこなかったのだ。いや、決して僕が美雪さんの嬌声を拝聴さ
せていただきたいとかそういうことではない。断じて否である。しかし、よくよく考えてみると美雪さんは僕と会ったとき
からどこか様子がおかしかったような気が……。
 そんな疑問を抱えながら綾波レイの尻をすりすりしていると、ドアをノックする音が響
き、次いで幼馴染の妹さんが部屋に入ってきた。僕は、いくら顔の知れた幼馴染の妹さん
とはいえ、うら若き乙女にこの醜 態を晒すことは憚られたので、慌てて綾波レイを背中
に隠した。
「お茶を持ってきましたー……」
 妹さんは部屋に入り幼馴染と美雪さんの痴態を見るなり、顔を青ざめさせ固まってしまった。
 僕はこの場に居合わせた者として、美雪さんを庇うべきかとも思ったが、しかし二人がなにを行っているの分からないの
で、どうにも庇いようがなく、事態を見守る外なかった。
「……なにしてんの?」
 妹さんの家畜でも見るような冷たく鋭い視線が二人に突き刺さった。
「運命の赤い縄ごっこしながら圧迫祭り」
 幼馴染はこともなげに答える。美雪さんは表情一つ変えず微笑んでいるままだ。
 妹さんは「きめえよ」とぽつりと呟くと、兄の馬鹿げた行為に付き合ってられんとでもいうように無視して、テーブルに
湯のみを二つ置いて、さっさと部屋を出て行こうとした。しかし、部屋を出て行こうとする妹さんを幼馴染が呼び止めた。
「おい、湯のみが一つ足りねえだろ」
「は?」妹さんは顔だけで兄を振り返った。
「美雪さんにもお茶を出せといつも言ってんだろうが!」
 幼馴染の怒声が部屋に響いた。妹さんは顔に笑みを浮かべて無言のまま二人に歩み寄っていった。しかし、その目は確実
に笑っていないのを僕は見逃さない。そして、
「きめえって言ってんだろうがァァァァ――ッ!」
 幼馴染の顔に座って微笑んでいた美雪さんの横顔に、妹さんの回し蹴りが炸裂した。
 中空をくるくると回り吹き飛び、本棚に激突した美雪さん。本棚から崩れ落ちるエロ本。部屋に響く幼馴染の悲鳴。痛快
な笑い声をあげる妹さん。綾波レイの尻を擦る僕。部屋の中は瞬く間に阿鼻叫喚の巷と化した。
 僕は慌てて美雪さんに駆け寄った。幼馴染は拘束されているので、びたんびたんと跳ね回りながら悲鳴を上げたままだっ
た。そして、エロ本に埋もれている美雪さんを抱きかかえた僕は唖然とした。


33 :No.08 紹介します。妻の美雪さんです 4/5 ◇QmrNKIyyew:10/03/15 00:29:08 ID:4iAYmchp
「――美雪さんの体温がない……」
「当たり前でしょ。そいつダッチワイフなんだから」

「で、頼みってなんだ」
 事態が収まり、落ち着き取り戻した幼馴染に僕は切り出した。僕は幼馴染の頼みを引き受ければ、絶世の美女である美雪
さんの尻を擦らせてもらえるかもしれないと思っていたのだが、しかしその美雪さんの正体が単なるダッチワイフであると
知ってしまった以上、彼の頼みがなんであろうと引き受ける気はなくなってしまった。ダッチワイフの尻など、なにが悲し
くて擦らねばならんのだ。全く以って仕様がない。
「実は……」
 幼馴染はそう言うと、ベッドの中をごそごそと探りはじめた。そして、一人の女の子を抱きかかえてきた。幼馴染はその
女の子を彼と美雪さんの間に座らせると、神妙な面持ちで言った。
「こちらは僕の娘の美雨だ」
 美雨と紹介された子は、女の子の事となると少々うるさい僕から見ても、とても可愛らしい女の子だった。新雪のような
白く透き通る肌、艶やかな黒髪をツインテールに結び、つぶらな大きな瞳が印象的だ。そして、彼女の笑顔に一度包まれて
しまったら、どんな男でも幼女性愛を引き起こすのも頷ける、そんな可憐な笑顔で僕を見つめていた。しかし、
「この子もどうせダッチワイフなんだろ」
 美雪さんの例もある、どんなに可愛らしい女の子でも、どうせこの男が引き連れている女性はダッチワイフに決まってい
る。大体、こんな可愛い女の子の人間が幼馴染のような気味の悪い男の部屋にいるはずがない。仮にいたとしても犯罪の匂
いしか漂ってこない。
 案の定、幼馴染は「ああ」と頷いた。そして、どこか後ろめたいことがあるかのように、顔をそらしながら切り出した。
「この子を引き取ってくれないだろうか」
「は?」
「実は美雪さんが子供が欲しいと言うもんだから、頑張って子供を作ったまでは良かったんだけどさぁ。その、なんて言う
かな、勝手が悪くて」
「き、貴様ァ!」
 僕は幼馴染に飛び掛った。なんて最低なヤツなんだこの男は。僕はいよいよこの男を許せなくなった。
「自分の手前勝手な都合で子供を作り、散々子供を酷使した上に勝手が悪いからと捨てるだと!? ふざけるなァ! お前
みたいな親という自覚が足りないヤツらが子供たちが傷つけ、壊し、不幸な目に遭わせているんだ! 自分で作った子供く
らい自分で責任を持って!」
「れだって…………」

34 :No.08 紹介します。妻の美雪さんです 5/5 ◇QmrNKIyyew:10/03/15 00:29:57 ID:4iAYmchp
「何だ? 何か言いたいことでもあるのか!」
「俺だって頑張れると思ったんだよ! 美雨が産まれたとき、俺はどんな苦汁を啜ってでもこの子を守っていこうと! 豊
かな暮らしではないが絶対に美雨を幸せにしてやろうと! だけど……、だけど現実は甘くないんだよ……。俺みたいなニ
ートを雇ってくれるところなんて無いんだよ…………」
「お前……」
 幼馴染はがくりと俯き押し黙ってしまった。僕もばつが悪くなって彼の胸倉を掴んでいた手を離し顔を背けた。
 先の喧騒が嘘のように静まり返る室内で、僕はなんだか居た堪れない気持ちになってきた。しかし、だからといって幼馴
染の言うことが正当な理由にはならない。どんな理由があろと知ったものか。自業自得だ。僕が彼の子供を引き取る気がな
いというのは変わらない。しかしこの状況はどうしたものか、頭を掻いてはぁと嘆息した。そこで不意に事態を黙って静か
に見守っていた美雪さんが目に入った。そして、僕の視界にそれは確かに映った。――美雪さんの顔に一筋の涙が伝ってい
た。
 ずるいですよ美雪さん、そんな顔見せられたら……。
「……悪いが、僕は美雨ちゃんの親にはなれない。それに子供は苦手だ」
「……そうだよな。悪かった変なこと頼んで」
「だけど、こんな僕でも頑張れば、美雨ちゃんの育ての親になれると思うか?」
「……え?」
「就職して余裕が出来たら必ず迎えに来いよ。それまで預かっておいてやる」
「……いいのか?」
「ああ。それともう一つ。美雪さんの尻を擦らせろ」

 僕の家にやってきた美雨ちゃんは、両親と別居することに悲しんでいるのか、それとも知らない人にお世話になることに
遠慮しているのか分からないが、部屋の隅で膝抱えてずっと何も喋ろうとはしなかった。しかし、僕がご飯を作ってやると、
最初に会ったときの可愛らしい笑顔を見せてくれた。
 今は僕のベッドの中で可愛らしい寝顔を見せてくれている。美雨ちゃんの柔らかい髪をそっと撫でると「うにゃ」と変な
声を漏らした。
 これからの事を考えて、僕ははぁと嘆息した。美雨ちゃんのためにバイトを増やさないといけないし、第一僕がバイトや
学校に行っている間は誰が面倒をみるのだ。不安材料が山のように浮かびあがってきた。でも、こんな可愛い子のためなら、
少しくらい忙しいのも悪くないか。
「ま、とりあえず今日は寝るか」
 誰にともなく呟き、僕はパンツを脱いでから美雨ちゃんの眠るベッドに入った。



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