【 左手の行方 】
◆Qvzaeu.IrQ




386 名前:左手の行方 ◆Qvzaeu.IrQ :2006/04/30(日) 18:38:58.96 ID:OWwNJM1o0
 ウーロン茶は、あたしの敵だ。最強の敵だ。
 今ままで、あらゆる敵を打ち滅ぼし、その都度勝利を収めてきたあたしも、これだけはお手上げ。
 敬ちゃんが学校の帰り道、手を握ってくれない。
 手を握ろうって言っても、いーっつもウーロン茶を片手におうおうってアシカみたいに頷くだけ。
 急いで飲み干すまで待つか、諦めるかしかない。
 ウーロン茶めっ。ウーロン茶め〜。

 敬ちゃんは、ウーロン茶がとにかく好き。凄い好き。
 授業中も紙パックのを飲みながら、話を聞いている。朝敬ちゃんが迎えに来てくれる時も必ず、ペットボトルを片手に持っている。帰り一緒に話しながら歩いていても、敬ちゃんの左手にはあたしの手ではなく、ウーロン茶、右手にはカバン。
 いつの日か、毎日毎日ウーロン茶ばっかり飲んでいるから、『ウーロン茶と、あたし、一日だけいなくなっちゃうなら、どっちが悲しい?』
 って聞いたら、敬ちゃんはもう即答でウーロン茶ですよ。あたしを差し置いて。
 その日から、あたしとウーロン茶の激しい戦いは始まった。
 今まで、敬ちゃんのえろ本を完膚なきまでに叩きのめし、えっちぃビデオにも当然ぶっちぎりの勝利を収めてきた。
 過去負けていった者達は、今はもうこの世には存在しない。それほどの完全勝利。
 だから、ウーロン茶も楽勝だって思った。もー、ウーロン茶とちぅするよりも先に、あたしとちぅするくらいの、素晴らしき勝利を収め、敬ちゃんの左手の座は不動の地位になるはずだった。
 しかし、ウーロン茶は強い。滅茶苦茶強い。
 ばれないように捨てたときは、エネルギーが切れた。とか言って、コンビニで補充された。
 悔しくって今度は、こっそりウーロン茶に塩を混ぜたら、敬ちゃんにマジ切れされた。
 ウーロン茶を貶める作戦は、ことごとく失敗。
 きっと、敬ちゃんのことを体内から洗脳してしまっているんだ。
 敬ちゃんの体の中には、ウーロン茶がぐるぐる巡っていて、指とかから水でも血でもなくって、ウーロン茶がぴゅーってでるんだ。
 次は、あたし自身を磨いて、敬ちゃんの目が他にいかないようにする作戦に出た。
 敬ちゃんと会うときは、敬ちゃんの趣味をチェックして好きそうな服を着るようにしている。おっぱいのおっきな子ばっかりデレデレ見るもんだから、嫌いな牛乳だって毎日飲んでいる。
デートのときは、メイクにも手を抜かないし、そりゃあもう数え上げたら限がないほどの努力をしている。
 それでも、ウーロン茶には勝てなかった。ウーロン茶の奴は、あたしたちのデートの時までしゃしゃりでてくるのですよ。それも毎回。
 敬ちゃんは、あたしを差し置いてウーロン茶といちゃいちゃちゅっちゅ。

387 名前:左手の行方 ◆Qvzaeu.IrQ :2006/04/30(日) 18:40:37.56 ID:OWwNJM1o0
 そのいちゃつきようと言えば、凄い。
 あたしたちの待ち合わせ場所に来る前から、もう手にはあるし、ずーっと何だかんだで離れることはない。
 あたしとちぅするときには、ウーロン茶を飲んだ後ですよ!
 だから、ウーロン茶は嫌い。
 あたしの目下最大の敵だ。そして最強の敵だ。えろ本よりも、えっちぃビデオよりも、そこら辺の別の女の子なんかよりも、よっぽど強い。
 何でそんなにウーロン茶が好きなのか聞いても、なんとなくとしか答えてくれない。
 なんとなくで、敬ちゃんの左手の地位を奪われ続けているのですよ。あたしは。
 ウーロン茶は敬ちゃんの左手の地位だけでは、飽き足らず、真っ白な歯すら奪っていった。
 あまりにも、毎日毎日飲むもんだから、歯に茶渋がついている。
 笑うとカッコイイ敬ちゃんの歯に、ウーロン茶のカス。
 これに気付いた時ばかりは、あたしと敬ちゃんの愛が冷めるかと思った。何でタバコのヤニ汚れみたいに、ウーロン茶汚れがついているの? と、思った。敬ちゃんの笑顔の魅力も1億倍下がった。
 ウーロン茶側からの激しい攻撃であることに気が付かなければ、きっと敬ちゃんはウーロン茶に奪われていた。
 恐ろしき、ウーロン茶。巧みな攻撃であたしの精神を揺さぶってくる。相手もあたしを敵視しているのは明らか。
  
 そして今日も、敬ちゃんはウーロン茶を左手に持っている。
 あらゆる小細工も、スキルアップももはや利かないコトが分かった。
「ねえ、敬ちゃん。ウーロン茶ばっかり飲んでいると、身体に悪いよ?」
 こうなったら、敬ちゃんにウーロン茶を嫌ってもらうしかないのだ。万策尽きたあたしの最後のあがき。
「そうか? 俺にとっては水みたいなもんだから大丈夫だろ。それに健康にも良いそうだし、美味いぞ?」
「でも同じのばっかり飲んでいたら絶対に悪いって、他にも健康で美味しいものは沢山あるよ」
 むうう、ベタ褒めじゃん。
「いっつもお前は、そういうことばっかり言っているけど、たまには飲んでみろって」
「え……、ウーロン茶はもうずっと前に飲んで以来嫌いだから……」
 本当だ。思えば、子供の頃からの戦いだったんだ。因縁の相手とは、まさにこの事。
「大きくなったら味覚とかも変わるし、飲んでみ? それでも駄目ならしょうがない」
「そ、それじゃあ」
 敬ちゃんがどーしてもって言うからだ。
 敬ちゃんの頼みなら、敵を口にすることも出来る。そして、敵を知りて己を知れば100戦危うからずって言う言葉を信じる。敬ちゃんの左手の地位の為だ。

389 名前:左手の行方 ◆Qvzaeu.IrQ :2006/04/30(日) 18:41:42.30 ID:OWwNJM1o0
「それはあんまり苦くない奴だから、平気だろ」
「……、む、不覚にも美味しかった……」
「だろ?」
 くそー、普通にあたしの好きな味だったー! しかも、敬ちゃんも凄いにっこり。あたしは黙って、頷くしかなかった。
「お、そっかw 美味いようなら良かった」
 そう言って、敬ちゃんはあたしの頭を撫でてくれた。
「うん、おいしかった」
「ほら、手」
 手持ち無沙汰に、敬ちゃんは左手をぶらぶらしていた。暫く左手が挙動不審だったけど、さりげなく差し出してくれた。
 あたしは敬ちゃんの手をぎゅっと握る。
 今、ウーロン茶はあたしの左手だ。
 ウーロン茶よ……、あたしが今まで戦った相手の中でも一番強かったよ。そして、よきライバルだったよ。
 だけど、これからはあたしの左手だ。必要時しか、敬ちゃんの手には渡らせない。いつも奪っちゃうもんね。
 敬ちゃんの左手の地位は、あたしのものだ。
 完全勝利じゃないけど、やっとウーロン茶にあたしは勝った。敬ちゃんの手が凄く暖かかった。

 おしまい。



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