【 猫と人 】
◆sTg068oL4U




84 :猫と人 ◆sTg068oL4U :2006/05/14(日) 23:53:22.89 ID:trixqDzS0
ラジオの音うるさくねぇか?」「いえ、お構いなく」
旅に出て今日で丁度三年。ヒッチハイクにも成功したし、目的地まであとチョットだ。

「兄ちゃんもダーマの神殿で転職かい?この辺走ってると、猫連れた奴良く乗せんだよ」
膝の上には猫のあおいが乗っている。三年前の雨の日、ボロ切れを纏った老人がくれた猫だ。

老人は僕に、ダーマの神殿に伝わる転職伝説を語ってくれた。
猫と一緒に三年間旅をし、ダーマの神殿を目指すこと。そうすれば猫を人間にさせてくれること。
ダーマの神殿がたとえ目前に見えたとしても、資格の無い者は決して近づくことは出来ない。
三年間の放浪生活を通じて猫と愛情を育んだ者のみ、その道は開かれる。
「資格の無い奴を乗せると何時も迷っちまうんだけど、今回は平気みてぇだな」

”ダーマの神殿 次の信号右折300m”の看板が見える。

「その猫やっぱり雌かい?」
「ええ。人間にしてもらったら、故郷に帰って所帯を持つつもりです」
膝の上で眠っているあおいの頭を撫でる。旅のクライマックスを前にして暢気なもんだ。
トラックに乗る前は土砂降りだった雨も、今ではすっかりあがっていた。
「起きろあおい、虹がみえるぞ!」
「おいおい、猫が虹なんか見て喜ぶのか?」

おじさんが笑って僕を茶化す。かまうもんか、あおいはもうすぐ人間になるんだ。


85 :猫と人 ◆sTg068oL4U :2006/05/14(日) 23:54:11.66 ID:trixqDzS0
そんなワクワクした気分を、あれから一年経った今でも時々思い出す。
3年も放浪していた僕に働き口などあるわけもなく、
アルバイトで糊口をしのぎながらハローワークに顔を出す日々だ。
あおいは人間としての習慣や能力は身につけて居ない為、慣れない生活に苦慮していた。
目を離すと裸で出歩こうとする為、可哀想だが部屋に閉じこめている。勿論仕事も家事も出来ない。
幸い日常会話は普通に出来たものの、大人に(猫の三歳は立派な大人なのだ)
服の着方から箸の持ち方まで教えるのは相当なストレスになる。
口が達者な上に自分は一人前のつもりでいるから尚更だ。

そして今日もまた、つまらない事で喧嘩になった。
そんなときあおいはいつも、「私は猫のままで良かった」という。

「猫じゃやれないから人間にしたかったんだろ!こっちの都合も考えないでこのスケベ!」
でもその日のあおいは言ってはいけないことをいった。
だからついつい手が出てしまった。

目一杯に涙を貯め、あおいはゆっくりとへたり込む。僕も尻餅を着くようにして座り込む。

雨音が室内にも良く響いた・・・・・・


86 :猫と人 ◆sTg068oL4U :2006/05/14(日) 23:55:14.32 ID:trixqDzS0
「課長、こんな感じでどうですか?」
部屋が明るくなり、映写機の側にいた山村が近づいてくる。
「駄目駄目、こうゆうジメジメした話に惹かれて萌える奴もいるんだ。
もっともっと不都合な物語を詰め込んで、観る者を恐怖に陥れないと」

ダーマの神殿の広報課は、猫を人間にする事によるリスクを啓発する映画の製作中だった。
虐待や浮気による殺害、捨て猫ならぬ”捨て人”など、
三年間の共同生活も空しく転職させた人間の無責任な行動が後を絶たない。
猫と人間のカップルがうまくいく事は非常に稀で、映画を通じて覚悟を問うのが目的だ。

「なんで三年も苦楽を共にしながらすぐに破綻してしまうんですかね」
「お偉方は精神論ばかりで何にも解ってないんだよ。
ただ長く一緒に居れば気持ちが通じ合えると思ってる。
猫と人では求められる役割も生活の仕方も全然違うのに、
それが人間になった後も不変だと思っていやがる。」
課長は不器用そうに煙草に火を付け、溜息の混じった煙を吐く。

「だから”うまくいかないのは愛情と覚悟が足りない所為”なんて未だに信じてるんだ。
今度は旅の期間を5年にするんだとさ。先月3年にしたばかりじゃないか」

終わり



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